大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1418号 判決

原告

坂東大典

ほか一名

被告

荻野俊夫

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らそれぞれに対し、各金二五〇〇万円及びこれに対する平成六年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外亡坂東勝(以下「亡勝」という。)の相続人である原告らが、被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害賠償を求める事案である。

なお、付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。

二  争いのない事実等

1  交通事故の発生(当事者間に争いがない。)

(一) 発生日時

平成六年七月一日午前九時三〇分ころ

(二) 発生場所

兵庫県氷上郡市島町梶原一〇〇六番地の一先路上

(三) 争いのない範囲の事故態様

被告は、普通貨物自動車(神戸四五に二九七五。以下「被告車両」という。)を運転し、右発生場所を南から北へ直進していた。

そして、折から、道路西側から被告車両前方に出てきた亡勝と被告車両とが衝突した。

(四) 結果

亡勝は、本件事故により脳挫傷の傷害を負い、平成六年七月九日午後五時五〇分、死亡した。

2  相続(甲第一号証、弁論の全趣旨により認められる。)

原告坂東悦子は亡勝の妻であり、原告坂東大典は亡勝の子である。

そして、亡勝の相続人は原告ら両名であるから、原告らは亡勝の被告に対する損害賠償請求権を各二分の一ずつの割合で相続した。

三  争点

本件の主要な争点は次のとおりである。

1  本件事故の態様及び被告の過失の有無、過失相殺の要否、程度

2  亡勝及び原告らに生じた損害額

四  争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張

1  原告ら

本件事故の発生場所は直線道路で、見通しも良好である。

ところが、被告は、道路脇にいた亡勝を、被告車両がその手前約三六・二メートルの地点に至って初めて発見したのであるから、前方不注視の過失があることは明らかである。

2  被告

亡勝は、本件事故の直前、道路の脇に立って店舗の清掃作業に従事していた。そして、使用していたホースが急に破損し、水が飛び散ったため、これを避けようとして急に道路上に飛び出してきたものである。被告は、亡勝が清掃中であることは認めていたが、同人が急に自車進路前方に飛び出してくることは予想もしていなかった。

そして、飛び出してきた亡勝を避けるため、被告は、自車に急制動の措置を講じるとともに、右にハンドルを切ったが及ばず、本件事故が生じたものである。

このような本件事故の態様によると、被告には過失はないというべきであり、仮に何らかの過失があるとしても、相応の過失相殺がなされるべきである。

五  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

六  本件の口頭弁論の終結の日は平成九年九月一六日である。

第三争点に対する判断

一  争点1(本件事故の態様等)

1  検甲第一ないし第一〇号証、乙第二号証、証人由良良子の証言、被告本人尋問の結果によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実の他に、次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故の発生場所は、片側各一車線、両側合計二車線のほぼ南北に走る道路上であり、北行き車線の幅員は約三・二五メートルである。また、最高時速は五〇キロメートル毎時に指定されている。

本件事故の発生場所の南側には、北行き車線と南行き車線との間に、道路標示により車両の通行の用に供しない部分であることが表示されている道路の部分(いわゆるゼブラゾーン)があり、その幅は北へ向かうほど狭くなって、本件事故の発生場所付近で消滅している。また、これに伴って、北行き車線の西側に、道路標示により車両の通行の用に供しない部分であることが表示されている道路の部分が北へ向かうほど広くなるようにとられており、本件事故の発生場所付近の右部分の幅は約四・六メートルである。なお、北行き車線と右部分とは道路の外側を表わす白線で区切られているのみで、段差はない。

また、本件事故が発生した当時、本件事故の発生場所の東側は、南北の広い範囲に渡って歩道の工事中であった。

(二) 本件事故の発生場所の西側には、右道路に面して、贈答品の販売等を営む株式会社ゆらの店舗が建っている。

そして、亡勝は、北行き車線の外側の部分で、ホースから水を出して、右店舗の窓や庇の清掃作業に従事していた。

ところが、右清掃作業中、急に右ホースが破損し、ホースから水が吹き出した。そこで、亡勝は、これを避けるために、北東方向に向かって北行き車線上に移動したところ、被告車両と衝突した。

(三) 被告は、時速約五五キロメートルで被告車両を運転し、前方約三六・二メートルの地点の道路脇で、店舗の方に向かって清掃作業に従事している亡勝を認めた。

そして、約一九・三メートル進行した後、ホースが破損して人の背丈以上に水が吹き出したこと、亡勝がこれを避けるために前屈みで自車進路前方に飛び出してきたことを認めた。

そこで、被告は、自車に直ちに急制動の措置を講じるとともに右ハンドルを切ったが及ばず、自車の左前部を亡勝に衝突させた。

なお、右衝突地点は、北行き車線の西側の外側線から約一・九八メートル道路中央部に寄った地点である。

また、被告車両は右衝突後、約五・一メートル北進した地点で停止した。さらに、亡勝は、右衝突地点から北に約一二・一メートルの地点に転倒した。

2  右認定事実によると、被告は、道路脇で清掃作業に従事している亡勝を認めたのであるから、漫然と最高速度を上回る速度で自車を運転するべきではなく、安全な速度と方法で進行すべきであったということができるから、過失責任を免れることはできない。

他方、亡勝が、被告車両の走行してくる道路上に左右の安全確認することなく飛び出してきたことは明らかであるから、同人にも過失相殺の対象となるべき過失があるというべきである。

そして、本件事故の発生場所の東側が広い範囲に渡って歩道の工事中であり、本件事故の発生場所は歩行者が横断することが不可能であったこと、被告が亡勝を認めた時、同人は清掃作業中であって、同人が道路上に飛び出してくることを被告が予測することは非常に困難であったことに照らすと、本件事故に対する過失の割合を、亡勝が七五パーセント、被告が二五パーセントとするのが相当である。

二  争点2(亡勝らに生じた損害額)

争点2に関し、原告らは、別表のとおり主張する。

ところで、原告らの主張を前提としても、原告らに生じた弁護士費用を除く損害(亡勝から相続した分を含む。)は、原告坂東悦子が金五二八五万一四四二円、原告坂東大典が金四九二七万一四四二円である。

そして、争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する亡勝の過失の割合を七五パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、原告らの損害から右割合を控除すると、次の各計算式により、残額は、原告坂東悦子が金一三二一万二八六〇円、原告坂東大典が金一二三一万七八六〇円となる(円未満切捨て。)。

計算式

原告 坂東悦子 52,851,442×(1-0.75)=13,212,860

原告 坂東大典 49,271,442×(1-0.75)=12,317,860

他方、被告の加入する自動車損害賠償責任保険から原告らに対して合計金三〇〇〇万円が支払われたことは当事者間に争いがなく、当事者間に争いのない亡勝の相続関係に照らすと、原告らの損害がそれぞれ金一五〇〇万円ずつ填補されたとするのが相当である。

したがって、原告らの主張を前提としても、なお、原告らに生じた損害はすべて填補されたと解されるから、原告らの主張する損害の当否については判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。

なお、原告らが本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、原告らの請求に理由がない本件においては、弁護士費用の請求も理由がない。

第四結論

よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 永吉孝夫)

別表

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例